日本経済論考 2022年2月

 自民党幹部等が言うように国際情勢は厳しさを増している。10億人規模の国がトップダウン型で素早く次の一手を打ってくる中でアメリカはまだインフレとの闘いを余儀なくされている。国際関係論的に中国の台頭に対応できなければ国際情勢が極めて不安定になることは予測できる。基本的には米中間の力関係の問題ではあるものの、日米関係の緊密さを考えると日本はその国力の維持、拡大に多大なる責任があることは自明である。世界中が感染症に苦しむ中で、どの国が先にこの悪夢から抜け出し繁栄を取り戻すかという時間的猶予の無い状況の中で日本経済や日本の制度設計に足踏みを強いている岸田政権には重い機会損失の責任がのしかかるだろう。


 とは言え現在の岸田政権下にも良い側面はある。今回は日本経済及び岸田政権をある程度前向きに見ていこうと思う。


 まず現在岸田ショックと言われ、米国株が下落する中で日本株の相対的弱さが指摘され、それが岸田政権に起因するのではないかと言う批判がある。


日経平均は年初来2月4日時点で-6.35%の変化率であり確かにかなりの下落幅である。


 しかしながら米国株価指数も軒並み S&P500 -6.17%、 ダウ平均株価 -4.09%、ナスダック100は-10.95%と日経平均の下落幅がずば抜けて大きいとは言えない状態となっている。


 年初来からの騰落率で岸田政権を評価すると中立的な立場にならざるを得ないが、一方で騰落率の起点を岸田政権発足時の10月4日に設定して計算すると以下のグラフのようになった。


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 日経平均は-3.53%と下落しているのに対して、S&P500は+4.65%、ダウは+3.19%、ナスダック100は1.53%の上昇とここに大きな差が出ていることがわかる。日本市場に投資をしている投資家にとって岸田政権は評価に値しないということがわかる。


 日本市場の投資家からは評価されないのは確かではあるが、しかしながら岸田政権では以下に述べる4つの利点があると考えられる。


    1.株価下落による分配機能


    2.「実質」への回帰


    3.欧米の失策からの決別


    4.建設的になった国会と「聴く力」のコンボ


 


1.株価下落による分配機能:


 株価が下落したことによって総理本人の意図かは知らないが、結果的に実質的な分配となっている。金を持っていて何も考えずに株を購入してきた人(インデックス投資)から、株価を安く手に入れたいというある程度野心のある人に資産が移る効果があったと考えられる。米国の金利上昇を加味すると、より本質的に価値のある企業のみが評価される競争的な市場への転換が見込まれるため、資金だけを持つ人々から真の実力のある投資家への資金移動が起こる可能性が示唆されており、この側面に関しては市場の効率性が最終的には高まる。


2.「実質」への回帰:


 前政権までの好景気というのは、「インフレ目標2%が約束されているから何かを買う」、「日銀マネーで膨れ上がった資産効果でお金持ちになった“気”がするから購買行動をする」というように好景気に実体がない。一方でそういう金融緩和を継続するとしながらも真の経済力を意識し始めているのが岸田政権である。現在の指針によって短期的に株価が下落したとしても理論上は長期的には日本経済には正の効果をもたらすと評価できる。


3.欧米の失策からの決別:


 アメリカやヨーロッパがコロナで経済が傷ついた後に行ったヘリコプターマネー政策、これで救われた人々がいたのは間違いないが、結果的に7%を越えるインフレを引き起こし今も進行中で、日本にも悪影響を及ぼし始めている。一方で岸田政権は過剰な資金のばらまきには断固反対し、国民からの反感を買ったがこれは結果的に良かったのではないかと思う。貨幣は資源であり、効率性を考えれば資源はそれをうまく使う人の手になければならない。10万円は愚者に渡れば一瞬にして浪費に消え、賢明な投資家に渡れば有効に使われ長期にわたって価値をもたらし続けるからである。人類全員が浪費できるほどの資源は地球上には存在しておらず、それを考えれば資源は全て効率的に使われなければならない。ヘリコプターマネー政策に関して、国民の声に流されず拒否したのは結果的には良かったのではないだろうか。


4.建設的になった国会と聴く力のコンボ:


 最近の国会中継を見ているとわかると思うが、国会が国民のための政策を考える工程を妨害するだけの国賊とも言える議員が次々と前回の選挙で落選し、国会がいわば浄化された状態になっている。国会の質疑応答は今やかなり建設的で是々非々の状態であり国会の目的が与党に対する妨害から国民のための政策を考える場に変わりつつある。多くの建設的な議論が日々行われており、それに現総理大臣の聴く力が発揮されれば、国政はより良くなっていくと考えることができる。


結論:


 岸田政権は近視眼的思考の日本市場に投資する投資家にとっては悪夢のような存在であることがデータを見て分かった。しかしながら、長期的には悪いことばかりではないという評価も下せないことはない。競争性を日に日に増している国際社会の中で挙動が遅いという不安はあるが、あまりにも悲観的になる必要性はないのではないだろうか。


 


              2022年2月6日 Lulutaso総合研究所 主席研究員 Hasetaso


 


 


 


以下参考資料:


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